第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~

side:ファクト
マスターの仰られた通り、『不思議の国』についての情報を纏め上げた。
後は一刻も早く『Sicario』へ向かいマスターに知らせなくては。
『不思議の国』についての情報をUSBメモリーに保存すると、自身の荷物をまとめて準局長室から出た。

マスターと『Sicario』として会うのは久しぶりだ。私は何時も此方の仕事しか任されない...マスターは私への危険を減らす為と仰られていたが、私も大佐から格闘技を一通り教わったのに。
私が女だからだろうか...。


「フェスターニャさん。何方(どちら)へ?」


思考にふけっていると向かいから刑事課所属のキース・ラドンに声を掛けられた。


「ラドンさん。お久しぶりです。...もう遅いので上がらせて頂きます。」


一礼して先へ進もうとすると、ラドンの腕が伸ばされ進行方向を閉ざされた。
一体なんのつもりだろうか。


「退かしては貰えませんか。人と会う予定がありますので...。」

「こんな時間に誰と会う...?」

「何を言っておられるのですか。其れに、其れはプライバシーの侵害と言うものです。
変な詮索は止めて頂きませんか。其れ共...貴方が私を疑う証拠が有るのですか?」


ラドンはマスター曰く勘の鋭い男だと言っていた。
マスターが警戒するほどの男...。私は嫌いだ。

ラドンは暫く私と視線を交えると、何も言わずに腕を降ろした。
私は一礼するとラドンを後にした。
ラドンの姿が見えなくなると、自然と溜息がもれた。


「演技の練習をした方が良いだろうか...。」

「舞台でもするんっすかッ!?」


背後からひょっこり現れたのはラドンの相棒を勤めているマロン・ルヴァルトだった。
確かマスターがラドンの相棒にした犯罪者だ。
良い駒だ、と言って楽しそうに笑っていたのを覚えている。


「いえ、違います。」

「ズコー!秘書さんノリ悪いっスよ!!もっと明るく行こうっス!!」

「は、はぁ...。」

「あれ!?今日もう帰っちゃうんっスカ!!?あっデートっスか!!準局長っスか!?」


マシンガントークは馴れない。
私の周りにはそんな人居なかったからだ。
其れはさて置き、早くマスターの元へ向かわなくては...。