第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~

視界が変わり、女がガキを家から追い出していた。
ガキは閉ざされたドアを、必死になって叩いた。
余りに強く叩くからガキの手は、血で滲んでいった。


「待って!!お母さん!!!中に入れて!!!何でもするから!!言う事聞くから!!!此処に置いてッ!!!!!
我儘も言わないし!!ご飯頂戴も言わないから!!!
お願い!!家に置いてくれるだけで良いからッ!!!!!!」


自分で見ていて惨めだった。
俺はこんなロクでもない女が居なくては、生きていけなかったのだから...。

ガキが叫んでいるとドアが開かれた。
女がまるで、汚物を見ているかの様な目でガキを見下ろす。


「さっき言った事、ちゃんと守るんだよ。」

「ありがとう!!お母さん!!!」


ガキは心底嬉しそうな目で女を見ていた。





そして、また視界が変わる。
次は何だと思っていたら、女が少し成長したガキに赤ん坊を抱かせていた。


「其れ妹だから。」


女は興味無さそうにガキに言った。
ガキは嬉しそうに赤ん坊を見つめ、割れ物を扱うかの様に優しく抱いている。

女が椅子から立ち上がると、一際大きいバッグを肩にかけ玄関へ向かった。
玄関のドアを開くと、思い出した様にガキに言った。


「其れ要らないから、あんたにあげる。後、あたしもう帰って来ないから。」


ガキは其の言葉に苦笑いを浮かべる。


「お母さん...嘘でしょ。だってこの子まだ赤ちゃんだよ...。オレもまだ子供だし...。」


女はイラつきを隠す事無く、盛大な溜息を吐くとガキを睨み付けた。
ガキは女の凍てつく視線にたじろいだ。


「邪魔っつてんの!!!解んないの!?邪魔なの!!!ガキが居るだけであたしの稼ぎが減るのッ!!!其れにガキなんて欲しくないし!!あんたも其れもあたしが押し付けられたの!!!正直居るだけでも邪魔!!本当の事言うとね、あんたも其れも生む価値無かったのよッ!!!!!!」


これが...これがあの女の、俺の母さんの本性だ。
同じ血が流れていると思うと、死にたくてたまらなくなる。
こんな女が居るから...あいつは幸せにならなかったんだ。

女が玄関から出て行く、ガキの俺は泣き叫ぶ俺の妹を床に置くと、使われていないキッチンから錆び付いた包丁を取り出して、出て行った女を追った。
女は幸いまだ家の近くにいた。ガキは油断し切っている女へ、錆び付いた包丁を手に握り締めたままぶつかった。

女は叫び声をあげ地面に伏せる。
ガキは女の背中を何度も刺した。血が辺りに飛び散り、ガキの顔は返り血で緋く染まった。





ここで視界が目まぐるしく変わり、俺は何時もの暗闇に立っていた。
ハッと我に返り辺りを見ると、ケビンが力無く倒れているのが見えた。
ケビンの倒れている姿を見ると、先程の記憶がフラッシュバックして俺の頭の中を駆け巡った。

誰だ...ケビンをこんな事にしたのは...。

























...殺してやる________