第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~

ソファーの後ろから現れたのは、顔の下半分を白いレースで隠した女の人だった。
長い癖のある黒髪が、顔に掛かっていて絶妙な怖さを演出している。


「ど、何方(どなた)ですか...?」

「私は、公爵夫人。」

「よ...宜しくお願いし、ます...?」


皆の名前を聞く限り『不思議の国のアリス』と言う小説の登場人物と一致している。
小説の中の公爵夫人さんは醜い姿だと描写されていた筈。公爵夫人さんと名乗った女の人は憂いさが感じられるが、醜い姿には見えない。


「疑問を抱いているのね。白ウサギ...。
誰だって最初はそんな風に思うわ。
上半分だけなら...。」


公爵夫人さんはそう言って白いレースを外した。
顕(あらわ)になった口元は、皮膚が突っ張っており、赤く炎症している。皮膚縫合の痕が痛々しく残っている。
唇の原型は其処に残っていなかった。
典型的な整形手術の失敗例だ。


「ねぇ、公爵夫人に相応しいでしょ。」


僕は公爵夫人さんの頬に手を添えて言った。


「整形という道に進んだ事は残念に思いますが、其れでも僕は綺麗だと思いますよ。だって貴女は今生きているんですから。」


そう言うと公爵夫人さんは泣き出してしまった。
泣かせるような事言ってしまったのだろうか。如何しよう、慰めなくちゃ...。


「あの、泣かないで下さい!失礼な事を言ったのなら謝りますから!!」


必死に慰めているとスラファちゃんが僕に寄り掛かった。


「嬉しくて泣いてるの。...白ウサギは不思議な子。そんな事言うのは、初めてよ。」

「僕は素直な感想を言っただけです。」

「其れが不思議な子なの。」


如何言う事なのだろうか。
公爵夫人さんは僕に抱きつくと、何度も僕の頭を撫でた。
あれ、僕『不思議の国』に馴染んでる...?

セルリア早く起きて、此の儘じゃ僕完全に馴染んじゃうよ。
他力本願な事は重々承知しているけど、『Sicario』の皆さん...助けて下さい。