第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~

side:ケビン
スラファちゃん(アリス)達に連れられて、僕はキハウズ通りから東へ少し向かったイルバー通りにある廃墟に辿り着いた。
辺りに人の姿は1つも見えない。闇と静寂だけが、今僕を取り囲んでいる。

廃墟の中へ足を踏み入れると、廃墟の中心に明かりの灯ったランプが置かれていた。
其の周りに数人の人が座っている。
皆個性的な服装だ。

僕達が来た事に気付いたのか、一同が僕達に視線を集めた。
こ、怖い...。セルリアに交代したいが、今セルリアの意識を感じない。
疲労で眠ってしまったのだろうか。其れ共眠らされたのか。
アルバーレさんが薬がどうとか言っていたし、恐らく後者だと僕は思う。

スラファちゃんが、白ウサギのぬいぐるみを抱きしめながら、僕たちを見つめている人達に話し始めた。


「白ウサギだよ。」


其の言葉を聞くと周りの人達は、嬉しそうに微笑みあった。

思い出した...。昼間セルリアと交代した後に、調整局の人やバーサルトさんが言っていた『不思議の国』の事だ。
あの後すぐに寝てしまったから、何故僕が白ウサギなんて呼ばれているのか、解らない事に変わりはないんだけどね。

ランプの周りに座っていた人の1人が、僕の方に歩み寄ってきた。
黒いシルクハットを被って、黒い燕尾服に身を包んだ男の人。黒い杖も持っている。


「やぁ白ウサギ、紅茶は如何かな?」


そう言う男の人の手の中には、泥水が詰められた缶詰めが握られていた。
思わず苦笑いが漏れる。


「おや、今は気分じゃ無かったのかな?失礼。」

「え、あ...はい、すいません。」


男の人は思い出したように、僕の肩に手を置いた。


「私は帽子屋だ。呼び方は色々あるから〝いかれ帽子屋〟〝マッドハッター〟どれでも構わないよ。」

「ど、どうも…。」


変な人だな...正直接しずらい。
帽子屋さんは僕に渡そうとした泥水を飲みながら、座っていた場所へ戻った。
アルバーレさんとミシェルさんも、自身の定置と思われる場所に腰を降ろした。

僕はスラファちゃんに手を引かれ、薄汚いソファーへ座らされた。
僕の膝の上にスラファちゃんが座る。これは懐かれたと思って良いのだろうか。


「あんたが...白ウサギ...。」


突然ソファーの後ろから声が聞こえた。
僕は思わず声を上げて、後ろを振り返った。