第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~

「おぉぉ!!意外と当たるもんだな。楽しぃ~。」

「駄目よ...。」


アリスが俺のコートの裾を掴む。
俺はハートの女王からアリスへと、視線を変えた。
ウサギのぬいぐるみを抱きかかえたまま、少しタレ目がちの瞳で俺を見ていた。


「殺すぞ、ガキ...。」


俺は鞭をうねらせると、アリスに向けて鞭を打った。
だが其の鞭は第3者によって、阻止された。

青い軍服を着た、青い髪の男が腕を血だらけにして鞭を掴んでいた。
アリスを庇う様に、俺とアリスの間に立っている。


「怪我は無いか、アリス?」

「うん。イモムシは大丈夫...?」

「大丈夫だ。其れより...、アリスに酷い事をするな。白ウサギ。」


外見に相反して、口調の荒い奴だな。
俺は鞭を引っ張りながら、イモムシと呼ばれた男を見る。


「此れが白ウサギか。随分、荒々しい奴だな。」

「また変な奴が現れやがった...。」


今の状況で2対1は不利だ。
疲れも溜まっていると言うのに、如何すれば良いんだ。
こんなヤバイ時と言うのに、眠気が...。クソ、此処で代わったら完全に殺られる。
眠ってたまるかッ...。


「イモムシ!!!何であんたが此処にいんのよ!?」

「アリスが危険に晒されていたからに、決まっているだろ。情けない誰かの為にな...。」

「あたしの事を言ってるのかい。クソムシ ...。」

「私は、“誰か”としか言っていないぞ。
ところで白ウサギ...、随分眠たそうだな。」


イモムシは血だらけになっている腕に、巻き付いている鞭を手繰り寄せる。
俺は情けない事に悲しい程簡単に、イモムシの腕の中に囚われてしまった。
眠い...畜生、眠たくなかったらこんな奴直ぐに、倒せるのに...。


「辛そうだな...。我慢は良くないぞ。」


イモムシは軍服の内ポケットから、煙管(きせる)を取り出すと、火を付け一息吸うと俺の顔面に煙を吹きかけた。
噎(む)せながら不覚にも、吸い込んでしまった。

吸い込んだ後、急激な眠気が俺を襲った。
クソ...何か、盛りやがったな。
意識が...もう、持た...ない...。
俺は強制的に暗闇へ落とされた。
ケビン、俺...お前を守れそうにねぇーよ。