第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~

「本当なんだぁ、あたし初めて見たわ。それじゃ...帰ってじっくり見なきゃね。」


ハートの女王は俺の首に、腕を回すと首を絞めた。
ハートの女王の腕を引き剥がそうと、腕を掴んで引っ張るが動かない。
シェバじゃあるまいし、何て腕力だ...。

俺は勢いに任せてハートの女王の腕に噛みついた。噛み付いた事により、ハートの女王の腕が緩まる。
其の隙に素早く腕から抜け出す。
疲れていると言うのに、体を動かさなくてはいけないのか。


「よくも女王のあたしに噛み付いたわねッ!!!」


ハートの女王はドレスを託し上げると、太ももに付けている黒い革のベルトから、黒い柄の何かを取り出した。
ハートの女王は其れを宙で振り下ろすと、薔薇の茎のように棘のある黒い鞭が出てきた。


「たっぷり痛めてあげるから、覚悟しな...。」

「怖い、女王だな。全く...。」


そう言いつつ俺は、ポケットの中にあるナイフに手を伸ばす。
鞭相手に勝率は低い、嗚呼なんて最悪なんだ。
こうなったら...相手から武器を奪うか。鞭なんぞ使った事は無いがな。


「何、ボケっとしてんのよッ!!」


ハートの女王は力強く地面に鞭を打ち付けると、俺に向かって鞭を振り落とした。
鞭は左斜め上から、俺の左上腕二頭筋に向けてやって来る。

俺は鞭の軌道が大体解ると、まず右へ避けた。
其の次にハートの女王が鞭を振り直すまでの時間で、ハートの女王との間合いを詰める。
ハートの女王が鞭を振り直すと、軌道をまた読む。次は左下から鞭が来る。
俺は地面を強く蹴ると、宙に飛び左側へ頭から落ちる。勿論頭を打たないように、受身を取る。
素早く状態を戻すと、ポケットからナイフを取り出して、鞭を持っているハートの女王の手を貫く。

ハートの女王は痛みで、鞭を握っていた手を開く。
鞭は重力に従い下へ落ちる。ハートの女王がもう1つの手で鞭を掴もうとするが、俺は其れより早く手を伸ばし鞭を手に取った。
目的を果たした俺は、ハートの女王との間合いを開いた。


「鞭って案外重いんだな...。こりゃあの腕力も頷けるぜ。」

「返せッ!!!」

「誰が返すか。...確か、こう振るんだっけ?」


俺はハートの女王の振り方を、見よう見真似でやってみた。
鞭は空を裂いて真っ直ぐハートの女王の、手の患部に当たった。