第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~

バーサルトとの会話が途切れて暫く...。ディーブが一息ついて俺の元へ歩いてきた。
普段は欠かない汗が、額を伝って頬へ流れている。
緊張が解けたのか眠たそうな目付きで、ディーブは俺の懐へ倒れ込んできた。俺はディーブを受け止めると、お疲れの意味を込めてディーブの頭を撫でた。


「お疲れ様でした、ディーブ。」


バーサルトは一声告げると、心配そうにギフトを見つめているドールの元へ行った。
ディーブが顔を上げる、何時もの無表情とは違い本当に疲れ切った顔をしている。


「血が...流れ、過ぎてた...。」

「助かったんだろ。」


ディーブは1回だけ首を縦に振る。


「だったら良いんじゃねぇーの。」

「...此れでもぼくは、医者だ...。ぼくのミスだ...。」

「泣きそうな顔すんなよ。結果が全てだ、生きてんなら良いだろ。」

「...次は、気を付ける...。」


そう言ってディーブはまた俺の胸に顔を押し付けた。
ベッドの上でギフトの微かな声が聞こえた。もう意識戻ったのかよ...。


「ふぅ~...流石に今回は死ぬかと思ったよ。」

「兄さん♥本当に、本当、ホントに心配したよ!!死んじゃ嫌だからね!!」


瞳に涙を抱えながらドールはギフトに抱きついた。
嫌そうな顔をしながらギフトは、ドールを引き剥がそうとする。


「良かったですね。ギフトさん。」

「僕は運があるからね。そう簡単に死なないよ。」


ギフトの台詞にバーサルトは少々呆れていた。


「貴方と言う人は...。」

「僕はこう言う人間さ。僕はこれが普通だと思うんだけど、周りは僕をおかしいと言う。
数年前に友達の勧めで精神鑑定をしてもらったんどけど、如何やら僕は“サイコパス”らしい。
まぁ、如何でもいいけどね。」


先程まで死にかけていた癖に、よく喋る奴だ。またディーブに拘束されても知らないからな。


「で、バーサルト。依頼してくれる?」

「デメリット覚悟で、誰が依頼するのですか?」


やはりバーサルトは断固として首を縦に振ろうとしない。


「よく考えてみてよ、バーサルト。
君が信頼を置いている殺し屋が、君の信頼を得ていない殺し屋をちょこっと痛めつけるって話さ...。
...『不思議の国』を放置しておけば、いずれ子供達にも危険が及ぶとは考えないのかい?」


ギフトは得意気に話す。
まるで依頼する以外の選択肢を潰していくかのように...。


「...人の弱味ばかりを、」

「怒る暇があるなら弱みを隠す事だね。
其れで、如何する?君には子供達の安全と言うメリットがあるんだ。
子供達は大事なんだろ?」


バーサルトは完全に納得がいったわけでは無さそうだったが、ガキ共が大事なんだろう。
...依頼を決意した。