第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~

ギフトがいる部屋に戻って来た俺達は、息を切らしていた。
ディーブを降ろすと俺は床に座り込んだ。後はディーブに任せれば何とかなる...筈だ。

バーサルトも俺と同じ様にゆかに座り込んでた。低いシルクハットで熱くなった顔に風を送っている。


「俺にも...してくれよ。」

「...もう少し、待って下さい。」


仕方無く待ちながら俺は、治療を行っているディーブと其れを手伝っているドールを見ている。

ギフト自身ならまだしも、俺達まで忘れてしまうとは...ディーブは内心悔しがっているだろうな。
ガキでも医者の端くれなんだ、しかも相手がギフトだからな。

一応俺達を育ててくれている人だ、いくら振り回されようがイラついてムカつこうが、なくてはならない存在と言う事に変わりはない。
ディーブはバーサルトの紹介でギフトに気に入られ、俺は人を殺し終えた真夜中で気に入られた。


「辛気臭い顔は、貴方には似合いません。」


そう言ってバーサルトが、低いシルクハットで俺に風を送る。
すっかり熱の冷めた頃に、風を送られて寒くなる。


「辛気臭ぇー顔なんかしてねぇーし。」

「では、無意識でしょうか。ギフトさんの言う通り無意識は何でも教えてくれますね。」


先程ギフトが言ってた事を、バーサルトは其のまま俺に言った。
俺は横目でバーサルトを見る。


「そう言うの嫌いじゃねぇーのか。」

「わたしが、されるのが嫌いなんです。
...そんな複雑そうな顔しないで下さい。ギフトさんに馬鹿にされますよ。」

「妙にギフトの名前ばっか出すな、挑発か?」


バーサルトは微笑みながら否定の言葉を述べる。


「貴方が怒ったらわたしはあっと言う間に死んでしまいます。」

「お前も殺人鬼だろーが。」

「わたしは貴方の様に無差別ではありません。貴方も知っているでしょう。」

「殺してる事に変わりはねぇーだろ。」

「...そうですね。ですが、わたしには子供達がいます。守ってあげなくては...と言ってもわたしも年なんですけどね。」


バーサルトは低いシルクハットで、風を送る事を止めると頭に被った。少しズレていた眼鏡を掛け直し、バーサルトは俺に微笑んだ。


「貴方が生きている時も、こんな風に話してみたかったです。」

「いきなり何だ...、気持ち悪ぃー。」

「もっと前から仲良くなりたかった、と言う意味ですよ。」

「はぁ...?」


何言ってるんだ、此奴は。確かに10年前でもバーサルトは生きているが、何故会いたいと思うんだ。
俺自身をディスるわけではないが、普通殺人鬼と知って仲良くなりたいだなんて思うだろうか。
其れとも唯単にバーサルトの頭がぶっ飛んでいるか、だ。