第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~

「ギフトさん...貴方、其れは、」


バーサルトが台詞を言い終える前に、ギフトは顔を真っ青にして倒れてしまった。
ドールが素早くギフトの上体を起こす、ディーブもギフトの傍に近寄る。
バーサルトは何がなんだか理解出来ずに焦っている。


「ど、如何したのですか!?」

「出血多量だよ...。バーサルト、血を保管していない...?」


マーシャルに刺された箇所を押さえながら、ディーブはバーサルトに尋ねた。13歳と言う年に似合わず冷静そのものだ。


「あ、有りますけど...。」

「バーサルトッ!!!早くしろ!!兄さんが死んじゃうかもしれないだろッ!!!?」


ドールがバーサルトに掴みかかる。


「ドール!止めろ!!バーサルト!部屋貸せ!!ドール落ち着け!お前が此処でキレてもギフトは助からねぇーって!」

「...解った。落ち着くね...。」

「ドール...、ギフトを運んで...。」


ディーブの指示にドールは黙って従った。
良く見ればコートから血が滴れている、痛みを感じ無いからギフト自身が、刺された事を忘れていたのか。

痛みを感じ無いと言う事は、本当に恐ろしい事だな。死ぬ事が解らない事と同じなのだから...。

バーサルトに案内され物静かな部屋に着いた。簡素なベッドにギフトを寝かせたドールは、泣きそうな瞳でギフトを見つめていた。
ディーブと俺はバーサルトと共に、血を取りに向かっている。
ディーブは足が遅いので、俺が抱きかかえている。

階段を降りて地下に向かった俺達だが...。
俺は明かりをつけた地下の光景に、驚かずにはいなれなかった。
干からびた肉が2~3枚干されていた。其の肉の下には硝子の箱が置かれている。

久しぶりに思い知らされたよ、バーサルトは神父でも絵に描いた様な聖人でも無く...“殺人鬼”だったのだと...。
恐らく干されている肉は人間だったのだろう。バーサルトの前で“神を侮辱”したのだろうか。


「すいません...処理の途中だったもので、お見苦しい物を...。」

「別に...、其れより血液型別にしてる?」

「勿論です。ディーブに教えられた通りにしていますよ。」

「なら、良い...。ギフトはB型だけど...、ある?」


バーサルトは奥にある銀色の冷蔵庫を開けると、霜が付いている血の入ったパックを2~3個取り出した。


「新鮮な血です。此れで大丈夫でしょうか。」

「ありがとう...。バーサルト、血が嫌いなのに...。」

「ディーブが必要としているのならわたしは平気です。
他に必要な物は有りませんか?」

「点滴針と消毒液、ガーゼ、医療用の針と糸...。」

「解りました。」


バーサルトはディーブが指示した物を揃えると、俺達は急いでギフトの元へ向かった。