第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~

side:セルリア
目を覚ました俺は、ギフトの腕の中にいた。立ったまま交代なんかするからだ、せめて座れっての...。

ギフトは元の髪型に戻っており、特徴的な金色の瞳が俺を捉えていた。
調整局の奴等も居なくなっていた。面倒な奴が居なくなっていて良かった、出来ればもう会いたくない。


「やぁ!セルリア。気分はどうだい?」

「俺よりデケェ男の腕の中にいても嬉しくねぇー。」


ギフトの腕の中から出ると、まだ、少し型の付いている髪を手で解いた。


「僕は美人を腕の中に入れられて、とても光栄だよ。」

「...ゲイか。」


引き気味に俺が言うと、ギフトは意表を突かれたような顔をした。


「違うよ。君は面白い事を言うね。僕は綺麗な瞳をした女性が好きだよ。」

「眼球だけの間違いじゃないのか。」

「...そうかもね。」


ギフトはあっさりと認めた。
あれだけ部屋に眼球を並べていれば、認めざる得ないのだけれど...。

ギフトがバーサルトへと向き直ると、口角を上げて得意気に笑った。


「で、バーサルト。...何で嘘を付いたの?」

「おや、何のことでしょう。」

「はぐらかすな。君が頬を掻く時は嘘を付く時だ。無意識って恐ろしいね、何でも教えてくれちゃうから。」


バーサルトが眼鏡を外して、懐から眼鏡拭きを取り出した。眼鏡を拭きながら俺達を細めで見つめる。
ギフトやドール似た、いや、其れより白に近い黄色い瞳だ。


「そういうプライバシーの無い事発言は嫌いです。まぁ、貴方達に言ってもさして問題には、ならないでしょう。」

「流石、バーサルト。話が早くて助かるよ。」


ギフトは笑顔でバーサルトを見つめる。
バーサルトはやれやれと言った感じで、拭き終えた眼鏡を掛けた。


「...あの子の本名なのか解りませんが、〝アリス〟と名乗って数日前にこの教会に訪れました。
白いウサギのぬいぐるみを持っていましたね、確か“残りは白ウサギだけなの、白ウサギは何処?”と言っていた気がします。
其れで、何でギフトさんがそんな事聞くんですか。」


自分が話したのだから、そっちも話す事を話せと言う意味か。
其れを察したギフトはコートのポケットに手を入れて、話を始めた。


「あぁ、数日前に僕のPCにメールが届いてさ。“白ウサギを貰う”ってね。悪戯かと思ったんだけど、『不思議の国』って殺し屋が出て来るし...。
解らない事だらけなのに、好き勝手やられるとムカつくんだよ。」

「依頼でも無いのに『Sicario』ともあろう殺し屋が動くのですか。」

「じゃー、君が依頼しておくれよ。」


驚いたバーサルトから低いシルクハットが落ちそうになる。
バーサルトは低いシルクハットをかぶり直して、ギフトを見つめた。


「もし依頼したとして僕に何のメリットがあるんですか。デメリットしか無いように思えますが...。」

「金は求めないよ。其の代わり...珍しい瞳を僕に頂戴。」


ギフトはコートのポケットから右手を出して、バーサルトに差し出す。
バーサルトの目付きが鋭くなる。