第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~

暫くするとバーサルトさんはキースさんに写真を返した。
頬を掻きながら、目を伏せる。


「見覚えがありません...。お役に立てず申し訳ありません。」

「謝らないで下さい。御協力ありがとう御座いました。」


キースさんは一礼すると、マロンさんを連れて何処かへ行ってしまった。
調整局員も大変なんだな...。

2人の姿が見えなくなると、ギフトさんは肩の力を抜いて地べたに座り込んだ。
掛けていた眼鏡を外して、盛大な溜息吐いた。


「そんなに疲れたんですか?」

「まぁね。ヒヤッとしたよ、全く心臓に悪い...。」


ギフトさんは崩していた前髪を整えながら言う。


「皆も、元に戻して良いよ。はぁ、疲れた~。」

「兄さ~ん♥髪止め返しよ♥」


ギフトさんは面倒臭そうな顔をしながら、ドールさんに髪止めを返した。
慣れた手付きでドールさんは前髪を止めると、大きな金色の瞳が光を浴びて輝いた。

ディーブ君も何時の間にか髪を解いていた、僕もギフトさんから貸してもらった白いピンと黒いゴムを外して、ギフトさんに返した。

其の頃合を見計らってセルリアが話し掛けてきた。


“髪、元に戻したのか。”


皆にバレない様小声で返す。


「戻したよ。反応が早いな、セルリアは。」

“変わってくれないか。”

「良いよ、僕も少し疲れ始めたところだから。」


僕はそう言い終えると、目を閉じた。目を閉じると何時もの暗闇が広がっていた。
其の中でセルリアが申し訳なさそうに、頭を掻きながら立っていた。

何時ものセルリアらしくなくて、僕は少し笑いを漏らしてしまった。


“...笑うなよ。”

“ごめん。さぁ、早く行きなよ。立ったままだから、倒れちゃうよ。”

“マジかよ!?せめて座ってくれ!”


セルリアは走って行ってしまった。
暗闇の中にセルリアは滲むように消えて行った。
疲れた僕は眠たくて、暗闇に横たわった。