第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~

仕方無くドールを連れて家に帰ることになった。
どうせ、家で会う事になるのだからいいだろう。早いか遅いかの違いだけだ。

夕陽が街を包む。何時の間にかこんな時間になってしまっていたのか。
仕事帰りの人が多いのか、小走りで歩く人が多い。早く家に帰りたいのだろうなと、心の中で思った。
人が多いせいか、偶々ギフトがすれ違いざまに見知らぬ人とぶつかった。ぶつけられた当の本人(ギフト)は放心状態でぶつかった事にすら、気が付いていない。

ぶつかった人も急いでいたのか、此方に気付かず去って行こうとした。
が、それを許さない者が計1名いた。ドールだ。

べったりとギフトに抱きついたいたが、素早く離れるとぶつかった通行人に飛び蹴りをはなった。地面に倒れた通行人は悲鳴をあげる暇なく、ドールによって押さえ付けられた。


「兄さんになんてことするの...?骨折れちゃったら、どうするの?痛いじゃんか...人は脆いんだよッ!!すぐ死ぬんだよッ!!解るぅうぅうぅうぅぅぅう!!!!??」


ヤバイ...キレたな。
止めに入ろうとドールの方へ走り出す。それよりも早くドールは、押さえ付けている通行人を殴った。聞き慣れた気持ち悪い音が耳に届いた。金属のような独特の臭いが鼻についた。
ドールの背後につくと殴っている腕を止める。殴られている通行人にめをやると、辛うじて呼吸をしているのが確認できた。


「目立つ行為は止めろ!落ち着け!!」

「ボクは冷静だよ...コイツが悪いんだ。何で、なんで...止めるんだよッ!!?」


怒りの矛先が俺の方な向いた。冷や汗が背中を伝う、気持ち悪い感覚がした。
いくら俺でも、あの怪力は一溜りも無い。咄嗟に間合いを開ける。

気付けば街行く人は皆、俺らに目を向けていた。目立つのはよくない。政府治安調整局の奴らに来られたら、更によくない。
これは一刻を争う...。

本気で殺らなければいけないな。俺は今日何回か解らない溜息をつくと、愛用しているポケットナイフをコートの内ポケットから取り出した。