第1巻 Sicario ~哀しみに囚われた殺人鬼達~

宿に着くと俺はベッドに沈んだ。隣のベッドには赤くなっているギフトが、大の字になって寝転がっている。
本当...弱い癖になんで注文なんかしたんだ。


「今“弱い癖になんで注文なんかしたんだ”って思っただろう。」

「なッ...!?」

「図星かい?...では、其の疑問に答えてあげよう。」


ベッドに大の字になっていたギフトが、上体を起こした。
俺も其れに釣られて上体を起こす。


「確かに僕は絶望的な程酒に弱い、ちゃんと自覚しているんだよ。じゃー理由を話そうか。」


吃逆(しゃっくり)を1つついてギフトは話を続ける。


「気持ちの問題さ、簡潔に述べれば。居るだろ、憂さ晴らしとかの為に酒を飲む奴。其れと同じさ。
さぁ、君は其処で僕に何か「憂さ」があると考える。僕は別に「憂さ」があって飲んだんじゃない。
唯単に気に食わなかったのさ...〝シヴァル〟についてね。」

「おい、待て。何でそいつの名前が出てくるんだ?
マーシャルって奴の付き人だろ。」

「そうだよ。...実に気に食わないね。ぶっ殺したくなるよ。」


ケビンの記憶越しでしか見ていないが、シヴァルと言う奴がそれ程癪に障る奴には見えなかった。
一体何が其処までギフトを苛立たせたのだろうか。


「セルリア。ここからは他言しないでくれよ。」


ギフトが口を人差し指を立てて、瞳を細くする。
金色の瞳が怪しく輝く。


「シヴァルは病気だよ。マーシャルは健康体だと思う。」

「逆じゃないのか?」

「会うまでは僕もそう思ってた。でも会って解った。」

「如何いう事だよ。」

「少しは黙って聞けよ、潰すぞ。
僕が君に話す理由は唯1つ、君の中にケビンがいるからだ。解るか?」


酔いが回っている所為か口調が荒くなっている。
怒らせたくはないので、言われた通り俺は黙る事にした。