ぼんやりとした背景に、〝あいつ〟がいた。
『夢』だと理解するのに時間は掛からなかった、だが、それでも俺は嬉しかった。

〝あいつ〟の頬に手を添えると、少し赤くなってはにかんだ。懐かしいな、本当に懐かしい...。
気付けば涙が瞳から溢れ頬を伝った。
〝あいつ〟は少し悲し気な笑顔を浮かべると、俺の涙を其の細い指で拭い取った。


“如何して、泣くの?”


右手で顔を隠しながら、俺は答えた。


「お前を、幸せに出来なかった...。」

“私は幸せだったよ。”


〝あいつ〟は柔らかな笑みを浮かべつつ、顔を隠している俺の右手を降ろした。


「もう一度...お前に会いたい。今度は必ず...幸せにしてやるからッ。」


〝あいつ〟は瞳を伏せて首を横に振る。


“私は充分だよ。もう前を向いて生きて...これからは......、〝 〟が幸せになって。”


そう言って〝あいつ〟は消えて無くなってしまった。
耐え難い喪失感と虚無感が俺を襲う...一筋の涙が孤独に流れた。



【Train Jack】《完》