1,猫になった。
いい匂いがする。
一階からする食べ物の香りに、俺はいつもより早く目が覚めた。
時計を見ると、まだ4時。7時起床8時登校の俺にはあまり縁がない時間帯だ。
…それにしても。なんでこんな朝からこんないい匂いがするんだ?
不思議に思った俺は、若干食欲をそそられつつも自分の部屋のドアを開け、一階へと続く階段を下りた。
「おはよー」
気の抜けた挨拶をしながら、リビングへたどり着く。
「あー、おはよう。今日は早いのね………え?」
今まで何か作っていた母さんが、振り向いた瞬間、なんとも言えない表情をする。
「いや、え?っとえー?あの、日向?どした?」
「…は?どしたって、何が」
意味がわからず聞き返す。
「そのー、ソレ。なんか、耳?」
耳?なんのことだろう。
「言ってもわかんないと思うから、ちょっと鏡みて来な」
「…うん」
そう言われ、俺は洗面所に向かった。
一体、どうしたっていうんだ?俺の顔になんかついてんのか?半分眠っている頭で考える。
だがその眠気は、鏡をみた瞬間吹っ飛んだ。そして、俺は驚愕した。
「ふぁ?」
思わず、変な声が出てしまうほどに。
いやしかし、これには誰だって驚くだろう。
なぜなら、昨日まで自分の耳がついていたところにはそれがなく、代わりに頭のてっぺんに二つ、尖った動物の耳のようなものがついていたのだ。
母さんこれ見てよく叫ばなかったなと今更ながら感心する。

…夢だろうか?それならこの不可解な現象にも説明がつく。
とりあえず、頬をつねってみる。………痛い。普通に痛い。夢じゃないらしい。
それならば。と、俺は頭のそれに触ってみた。
あ。なんか気持ちいい。フサフサしてる。穴に指を入れてみると、ごそっと音がした。
なんか、元からついてたみたいになってるし。…引っ張ると、すごく痛い。本当に元からついていたみたいだ。
…こんなことしてる場合じゃなかった。
「どうしよう。耳が生えた」
とりあえず鏡に向かって言ってみる。
「うん知ってる」
フツーに返された。
「えっ」
…今喋った?鏡が?
「それより日向、あんた学校はどうすんの?」
母さんだった。てか母さん、いつからいたの?!
「さっき」
…心を読まれている。
「学校には行ったほうがい…」
「でもいちいち考えんのめんどくさいわね。一旦寝ちゃったら?寝てたら直るかもよ!」
いと思うけど…最後まで話を聞け。
でもこういう時、家族が楽観家(?)だということに本当に感謝したくなる。