オレンジロード~商店街恋愛録~

「人間と一緒です。その場にただいるだけなんて誰だって寂しく思うものでしょう? だから、語りかけてあげるんです。綺麗だねって言いながら水を換えたり」

「………」

「恋人にするみたいに接したら、花はちゃんとわかるし、より褒められたいと思って綺麗に咲くものですよ」

「……『恋人にするみたいに』ですか」


それはすごく難しいなと、神尾は思った。

恋人がいた頃のことなんて、ほとんどもう忘却の彼方で、どう接していたかなんて思い出せもしなかったから。


とはいえ、そんなことは言えやしない。



「また何かわからないことがあれば、いつでも聞きに来てください」

「はい、ありがとうございます」


ラッピングの終わった百合の花束を受け取り、代金を払った。


不似合いな花束を抱えて店の外に出ると、ちょうど真上に来ていた太陽の眩しさに目を細めた。

が、先ほどの女性店員の説明を思い出し、直射日光はダメだとはっとした神尾は、しかし店に戻るまでの間は仕方がないのだろうかと馬鹿正直に考えてオロオロしてしまう。



その時だった。



「あら? マスターさん?」


弾かれたように顔を向けると、いつものように『渡辺写真館』のエプロンをつけた、あの女性が。

女性はすぐに神尾が抱えている花束を見て、「わぁ、綺麗」と顔をほころばせた。


自分が不似合いな花束を抱えている気恥かしさも手伝い、神尾はドキドキとしてしまう。



「えっと……。ど、どうしてここに?」


どうにか話を逸らそうと素っ頓狂なことを聞く神尾に女性は、不思議そうに首を傾けると、



「『どうして』って言われても、ここ、うちの写真館の前ですよ?」


言われてはっとした。

『斉木生花店』の斜向かいに『渡辺写真館』があることなんて、商店街中の誰も、考えなくてもわかることなのに。


恥ずかしさの上に恥ずかしさを重ねた神尾は、穴があったら入りたいとさえ思えてくる。