オレンジロード~商店街恋愛録~

「おかしくはありませんよ。あなたの人生はあなたのものです。たとえ、誰に何を言われたとしても。自分がいいと思う道を選ぶべきだと、僕は思います」


35になっても独身のままの神尾を笑う者も、今までいなかったわけではない。

自分にも経験のあることだからこそ、神尾は強く言った。


女性はくすりと笑い、



「ありがとうございます」


と、神尾に向かって頭を下げた。



「私ね、きっと、誰かに今の自分を肯定してもらいたかったんだと思うんです。こんな自分でも認めてほしかったっていうか」

「そういう言い方はよくない。ご自分を卑下してはダメですよ。あなたは素敵な女性です」


慌てて言った後で、自らの言葉の意味に気付いて、少し焦った。

しかし、女性はまた笑い、



「マスターさんは、お優しい方なんですね」

「えっ」

「私もマスターさんみたいな方と結婚していたら、幸せになれていたかもしれませんね」


面と向かって言われると、どきりとする。

こんなに心拍数が上がったのなど、一体いつぶりなのか。


それでも神尾は、年相応に平静を装い、「ありがとうございます」と、どうにか笑みで返した。




浩太との会話を思い出す。


愛だの、恋だの。

もうどうやって恋愛をするのかすら忘れてしまったが、妙なときめきに、変に錯覚しそうになってしまう。




「じゃあ、私、仕事に戻りますね」


お金を置いて、女性は席を立ってしまった。


不意に呼び止めようと思ったが、その理由が思い当たらない。

大体、自分は女性の名前すら知らないのだから。



神尾は何だかよくわからない息を吐き、カップを片付けた。