その日の昼に、その人は店にやってきた。
いつものように、『渡辺写真館』のエプロンをした女性は、カウンター席に座ると、
「アメリカンをください」
と、静かに言った。
神尾は「はい」とだけ返し、コーヒーを作る。
しばらくの後、女性が口を開いた。
「ねぇ、マスターさん」
「はい」
「私ね、親戚から、お見合いを勧められてて」
「え?」
驚いた。
見合いがどうとかいうことがではない。
なぜ自分にそんなことを言うのか、ということがだ。
「出戻りだと世間体が悪いし、相手もバツイチだからちょうどいいだろ、って」
「………」
「一度、会ってみるだけでもしてみろ、どうせ恋人もいないんだろ、って」
「………」
「どう思います?」
どう思うかと聞かれても、困ってしまう。
神尾は苦笑いで、
「それは、あなたの気持ち次第だと思いますけど」
「私の気持ち?」
「ご自身がお見合いなんてしたくないと思うのなら、お断りすることは悪いことではないと思います。しかし、そうでないなら、ご親戚の方が言うように、会ってみるだけでも損はないかと」
女性は、神尾が置いたコーヒーカップに口をつけ、
「私ね、正直、今は、また誰かと結婚するなんて、考えられなくて。それっておかしいことなんでしょうか?」


