ほとんど毎朝、浩太はモーニングを食べにやってくる。
その理由など知らないが、いちいち客の詮索をしたいわけではないので、一度もそれを聞いたことはなかった。
浩太は大体いつも、無言でモーニングを食べ、コーヒーを飲んで立ち去るのだが、
「なぁ、おっさん」
今日は珍しく、浩太の方から声を掛けてきた。
『おっさん』と呼ばれたことには少し腹立ったが、でも22歳の子から見れば、確かに自分は『おっさん』だなと思い直した神尾は、「はい」と返事をした。
「愛って何だと思う?」
「……はい?」
「『はい?』じゃなくて、『愛』だよ」
この子は急に、一体どうしたというのだろう。
まさか、恋でもしたのだろうか。
しかし、追求したら怒らせてしまうだろうなと思った神尾は、
「愛ですか。難しいですね」
首をひねって考えてみる。
浩太はコーヒーをすすりながら煙草を咥え、
「俺は、目に見えないものが苦手だ。愛なんて、特に」
「まぁ、そうですね」
「形がない。明確な規定もない」
「でも、だからこそおもしろいというのが、一般的な意見ではないかと」
杓子定規な返答だと、自分でも思う。
しかし、ろくな恋愛経験のない神尾には、それが精一杯だったのだ。
浩太は「ふうん」としか言わないまま、物憂げに煙草を煙を吐き出した。
愛だとか、恋だとか。
そんなことを大真面目に語ったのなど、学生時代以来だなと思った。
だから、昔を思い出したような、何だか少し、不思議な気持ちになった。


