オレンジロード~商店街恋愛録~



『喫茶エデン』は日曜が店休日だ。



店休日といっても、神尾は1週間分の売上や収支をパソコンに打ち込んだり、短期的な経営目標を立てたりしながら、午前中を過ごす。

こういうことに手を抜けないのは、銀行員時代の名残りだろうけれど。


午後になり、作業を終えた神尾は、息抜きがてら、駅裏まで散歩に出かけた。


よく晴れた、とてもいい天気。

歩いているうちに、少し喉が渇いたので、自動販売機で飲み物を買い、ガードレールに寄り掛かって、町並みを眺めながらそれを飲んでいたら、



「あら、マスターさん」


顔を向けてみると、先日同様、『渡辺写真館』のエプロンをした女性が。



「誰かと待ち合わせですか?」

「いえ。天気がいいから散歩を。あなたは?」

「私は、喜寿のお祝いをしたおばあちゃんのおうちに、できあがったお写真のお届けに」

「お届けもしているなんて、大変ですね」

「そうでもないですよ。近くの方だけですし、それに、私も散歩は好きですから」


女性はそう言った後、「あ、そうだ」と、何かを思い出したように、肩掛けバッグの中を探る。

取り出したものを神尾に差し出した女性は、



「これ、よかったらどうぞ。さっき、おばあちゃんのおうちにお写真をお届けした時にいただいたお饅頭なんですけど」

「悪いですよ」

「たくさんあるので、もらってください」

「あ、……はい」


どうにも断り切れず、饅頭の箱を受け取った。

女性が笑うから、神尾もつられたように笑ってしまう。



「じゃあ、今度、お礼にコーヒーを一杯、サービスします」

「あら、嬉しい」


女性は、そして腕時計を一瞥し、「もう戻らないと」と言った。



「それじゃあ」


お互いに頭を下げる。

去っていく女性の背中を見つめながら、何だか不思議な人だなと、神尾は思った。