オレンジロード~商店街恋愛録~

「色々あったって言ったじゃん」

「だから、俺はその『色々』を聞いてんだけど」


結はレジカウンターで頬杖をついた。



「上司も、同僚も、苦手な感じの人ばっかりでさ。それでもあたしは、苦労して内定もらったわけだし、ひとり暮らしだから働かなきゃいけないしで、お金のためだと思って必死でやってたの」

「なのに、何で辞めた?」

「馬鹿みたいにくだらないことでだよ」


怪訝そうに、ハルの顔がこちらを向いた。

結はレジカウンターでうな垂れ、



「1年くらい前に、別の支社から転勤してきた人といい感じになって、付き合うようになったの。もちろん、みんなには内緒でね」

「………」

「あたしは本気だったし、結婚も考えてた。けど、その人、実は奥さんいたの」

「………」

「ありえないでしょ。不倫だよ? あたし、そういうのだけは本気で嫌だったのに、知らなかったとはいえ、最低なことやってたんだから」

「………」

「でも、彼はあたしがそれを知ったら、開き直って言ったの。『単身赴任だからどうせ妻にはばれない』、『結婚はできないけど、このままでも十分楽しいじゃない』、『俺のこと好きなのに今更別れられるの?』」

「………」

「馬鹿にすんなって感じでしょ? 怒るより呆れた」

「だから、そいつと別れるついでに会社も辞めて戻って来たってわけか」


ハルは、言って、再び顔を戻して棚を整理する手を動かし始めた。

結は、少し、泣きそうになった。



「10年で、あたし、変わったよね。すっかり汚れた大人になっちゃった」


呟いた声は震えていた。


無垢だった頃のことを思う。

ハルと、あの公園で、一緒に過ごした他愛ない時間が、ひどく懐かしくて、遠い。



「まぁ、大人になるっつーのは、そういうのと引き換えなんじゃね?」

「じゃあ、ハルも汚れた大人になった?」

「多分、お前と同じくらいには」