オレンジロード~商店街恋愛録~

「ちゃんと飲めるかなぁ?」


小声で言いながら、結はハルの服の裾を掴んだ。


子猫は震えながら皿に近付き、慎重に匂いを嗅いでいる。

そして、結とハルを見て、危険がないと判断したのか、ゆっくりとそれに舌をつけた。



「わぁ、飲んだ! 飲んだよ、ハル!」


あまりの嬉しさにハルに抱き付き、はっとする。



「あ、ご、ごめん」

「いや、別にいいけど」


ハルは特に気にしている風でもない。


ちょっとムカつく。

自分だけ余裕そうな顔しちゃって、何かあたしだけ意識してるみたいじゃん。



「上がる?」


ハルは聞いてきた。



「玄関先にいるのも変じゃね?」

「でも、ご家族は? 夜遅いし、さすがに迷惑じゃない?」

「お前、俺に牛乳を出さなきゃ猫殺しみたいに言っといて、今更になってその口から『迷惑』という単語が出てくるとは」


やっぱり呆れた顔をしたハルは、「別に親いねぇから気にせず上がれよ」と言った。


結は反論できないまま、頬を膨らませた。

ハルはさっさと奥に行ってしまうので、結も仕方がなくそれを追い掛ける。



「適当に座って」


部屋の隅にちょこんと座っていると、ハルがグラスふたつを持ってきてくれた。



「麦茶しかないけど」

「あ、どうも」


結は委縮して、いきなり他人行儀に礼を述べた。


冷静になった今、改めて考えてみれば、すごく変な感じだ。

10年前に、ほんの少しだけだが、一応、付き合っていた人と、まさかまたこうして顔を突き合わすことになるなんて。