「覚えてる? 今日は俺たちが付き合った記念日だよ」

「あ……」


忘れてた。

と、いうか、まさかレイジがそんなことを覚えててくれていたなんて思わなかった。


雪菜も思わず笑ってしまう。



「ありがとう。すごく嬉しい。でも、こんなことしたらばれちゃうよ」

「別にいいじゃん、ばれたって。ここには俺たちを引き離す人なんていないんだから」


途端に、父の顔が脳裏をよぎった。

しかし、時計を一瞥したレイジが先に、



「俺まだ、戻って伝票の整理があるから、先に帰ってな」


と、言って、そのまま出て行ってしまった。



胸に抱えた花束と、残された雪菜。

雪菜は言いたい言葉をぐっと飲み込み、顔をうつむかせた。


外の通りは夕焼け色のオレンジに染められていた。




再び奥から顔を出した斉木夫人は、



「あら、その花束、どうしたの? レイジくん、持って帰らなかったの?」

「あ、えっと。近くだから届けてほしいそうなので、私が帰るついでにと思って」


慌てて言った。

斉木夫人に対する嘘に少し心苦しくなったが、



「そう。じゃあ、悪いけど、お願いね」

「はい」


特に何か疑われたという風でもなく、雪菜は内心でほっと安堵する。

しかし、やっぱり多分、これでいいはずはない。



「お疲れさまでした」


雪菜はぺこりと頭を下げ、花束を抱えて『斉木生花店』を出た。