翌週、雪菜が店に訪ねてきた。



「ハルくん。例の新刊、もう入荷してる?」

「してるよ。ほら、取っといた」


昨日、届いたそれを差し出すと、雪菜の顔はぱあっと笑顔になった。


客の嬉しそうな顔は好きだ。

それが雪菜だからとかではなく、相手の喜びに一役買っているんだという実感を得られるから。



「ありがとう、ハルくん」


会計をしながら、ハルは「こちらこそいつもありがとうございます」と、折り目正しく頭を下げた。


雪菜は本を大事そうに胸に抱えていた。

目が合って、ふたりで笑う。



「その本ね、俺も今読んでるけど、すごいよ、内容が。さすがは新進気鋭の作家だなって感じで。どういうラストになるか全然想像できないもん」

「ほんとに? じゃあ、読むの楽しみだなぁ」

「他にも、この前発売された、これ。雪菜ちゃんの好きそうな作風だったし。かなりおもしろかったから、暇だったら読んでみるといいよ」


必死で言っていたら、雪菜にくすくすと笑われた。



「ハルくんってさ、いつも、別に俺は本なんて、って言ってるけど、自覚してないだけで、ほんとは嫌いじゃないでしょ」

「……え?」

「っていうか、好きでしょ、本。話してればわかるよ。愛情が伝わってくるもん」


言われてひどく驚いた。



確かに、昔は活字というだけで敬遠していたが、読んでみればそれなりにおもしろいものだと気付いた。

そして、だからこそ、次第にダンスへの気持ちが薄れていることも。


俺はただ単に、ダンスを忘れれば自分のこれまでやってきたことが消えてしまいそうで怖くて、だから本屋の自分を認めたくなかっただけなのだ、と。


言葉が出なかった。

雪菜はまたくすりと笑い、