「あ、雪菜ちゃん、一緒に行く? 特別に奢るよ」


おどけたように言ってみたのだが、



「ごめーん。私もパス。また誘ってね」


雪菜はガードが固いのか、それとも本当に予定があるからなのか、誰がどう誘っても、ほとんどいつも、首を縦に振ることはない。


多分、カレシでもいるのだろう。

それを問いただす気はないけれど。



「ツイてないなぁ。俺今日、振られまくりじゃん」


雪菜は笑いながらまた、「ごめーん」と言った。



25歳。

真面目な恋愛も不真面目な恋愛も、それなりにこなしてきたし、この程度のことを本気でどうとか思うような年齢でもない。


惰性で毎日を繰り返すだけ。




「じゃあ、またね」と言い、ハルはその場で雪菜と別れた。




商店街の中だけで晩飯の買い出しを終え、ハルは『遠藤書店』の二階にある自宅に戻った。

この商店街にいればすべてが事足りるのだし、楽なものだ。


両親はハルが店を継いだのを機に、老齢の祖父母の心配をして田舎に引っ込んだ。


自堕落な男のひとり暮らし。

でも、時々、楽すぎてぬるま湯に浸かっているような感覚になる。



捨てるに捨てられないまま、段ボール箱に押し込めている、ダンス関連の本やDVDの数々。




ダンスを嫌いになれたらどれほどよかっただろう。