今日は早々に店じまいをして、薄暗くなった商店街をひとり歩く。
『斉木生花店』の前を通った時だった。
店の片付けをしている雪菜と会った。
「あ、ハルくんだぁ。何か、すごく久しぶりに会った気がするね」
雪菜の笑顔に少し和む。
雪菜は『斉木生花店』で1年ほど前からバイトをしている24歳。
化粧が薄くても整った顔で、明るくて可愛いからとにかく誰からも好かれている。
噂では、雪菜を雇って『斉木生花店』の売上が1,5倍になったと聞いたが、それすら嘘だと思えないような魅力のある子。
「ほんと、あんまり会わないよな。雪菜ちゃんが近くで働いてること忘れてたわ」
なんて、言いながらも、いつも雪菜のことを気にしている自分の心には気付いている。
とはいえ、俺はすべてから逃げた人間だ。
告白など夢のまた夢で、ハルにとっては分相応に、雪菜と話ができるだけでいい。
「そうそう。雪菜ちゃんの好きな作家さんの新刊、来週発売だよ。買うなら取り置きしとくけど」
「ほんとに? 嬉しい。ありがとう。発売されたら教えてね。すぐに買いに行くから」
「オッケー。任せとけ」
この関係をどうにかできたらいいのにとは思う。
しかし、ダンスを好きでいたあの頃のように、雪菜を一身に求めるような気持ちが湧いてこない。
ダンスを辞めて以来、ハルは何事においても気力がないのだ。
「ハルくんがいつも色々教えてくれるから、私、買いそびれがなくなってほんと助かってるの」
「そりゃあ、雪菜ちゃんは『遠藤書店』の大事なお得意さまだからな」
「あはははは」と笑っておいた。
「もう帰るの?」
「あぁ。レイジと飯でも行こうと思ってたのに、振られたからさ」
「ふうん」


