ハルは2年前までダンサーだった。
大会などでは何度か優勝したこともあったし、有名人の後ろでプロモーションビデオに出たこともあるほどの実力があった。
けれど、2年前、練習中に靱帯断裂の大怪我をした。
医者には「リハビリすれば踊れないことはない」と言われたが、体が今までのように動かなくなってしまったのは、誰より自分が一番わかった。
だから、辞めた。
知人からスクール講師の誘いも受けたが、中途半端にダンスと関わることほど辛いことはなかったから。
少しの間、ふらふらと過ごしたが、今は親の跡を継いでこの『遠藤書店』の店主に納まっている。
でも別に、特に本が好きだということもない。
家業だから仕方がないし、何もすることがなかったからちょうどいいという程度。
しかし、ここにこうして座っているだけで、ダンスから逃げた自分をまざまざと思い知らされて、やりきれない気持ちになるのだ。
ダンスを嫌いになったわけではない。
けど、だからこそ、苦しくて悔しい。
夢も希望も目的もなく、ただ息をして毎日を繰り返しているだけの、今の自分。
毎日が充実していて、輝いていたあの頃から比べれば、なんと腑抜けなことだろう。
だからって、焦って何か見つけようとしたところで、よりダンスへの想いに気付かされるだけの、悪循環しかなくて。
「それを捨ててもいいって思えるものに出会えたから」と言っていたレイジを、素直に羨ましく思う。
何もない。
誰もいない。
じゃあ、今の俺は一体何なのだろうかと、いつもいつも、答えの出ない疑問符ばかりに襲われる。