そんなことすら忘れ、健介の言葉をいつしか邪険にするようになっていた自分を恥じた。



「ほら、帰るぞ」


健介の右手が差し出される。

明子はまたうなづき、左手でその手を取った。


昔みたいに手を繋いで並んで歩く。



「あ、見ろよ。夕暮れだ」


顔を上げたら、ちょうど傾いた西日が射し込まれ、商店街がオレンジの色に染まっていた。

『オレンジロード』の名前の由来。


人々の顔にも笑みが溢れている。



「俺、いつもこの景色を見てたくて、店を継ごうと思ったんだ」


健介の誇らしげな横顔も、オレンジ色になっていた。

それを見て、明子は素直に綺麗だと思った。


ぼうっと健介の横顔を見ていたら、



「レイジくんを好きでいたってどうせ報われないんだし、俺で妥協しとけば?」

「え?」


雑踏の所為でよく聞き取れなかった。

だからもしかしたら聞き間違いだったのかもしれないと思い、



「何? 今、なんて言った?」


明子は聞き返したのだが。



「べ、別に何でもねぇよ。化粧が落ちまくってブスが8割増しだって言ったんだよ」

「はぁ?」

「行くぞ、ブス。さっさと家に帰って顔洗え」


健介にぐいと繋いでいる手を引かれた。


『ブス』なのは百も承知なので、それを認めた上で、明子は、何だかなぁ、と思った。

この状況が、少しおかしかったのかもしれない。