「見ろよ、あれ」


健介が指差す先に視線を向ける。


西日が商店街に射し、あたりをオレンジへと染めていく。

『オレンジロード』の名前の由来。



「な? 綺麗だろ?」


思わず陸人がうなづくと、



「この商店街には神様がいるんだよ」


と、傍にいた初老の女性が口を挟んだ。



「あの光に包まれていると、幸せな気持ちになれるんだ。だからみんなが人に優しくなれる。神様がこの商店街を守ってくれているんだよ」


そんな馬鹿な。

と、どこかで思いながらも、陸人はオレンジの美しさに目を奪われて、言葉が出ない。


思い返せばこんな風にして商店街を見ることなど、今までなかった気がするから。



「この商店街で育てられる坊やは、きっと素敵な大人になれるだろうよ」


坊やって、俺か!

反論の声を上げるより先に、初老の女性は陸人に飴をひとつ握らせ、西日に向かって歩き出した。


初老の女性が歩き出したのを機に、人々もまた、散らばっていく。



陸人はもらった飴を握り締め、しばらく西日のオレンジを眺め続けた。



「……神様、か」


信仰心など欠片もない陸人は今まで神の存在を信じていなかった。

しかし、不思議とこの西日に照らされていると、あたたかい何かが心の内に溢れてくるように感じて。





あたたかなオレンジの光に包まれて、今日も商店街では人の営みが繰り返される。

喜びも、悲しみも、この光に包まれてしまえば、すべてはちっぽけなことでしかないのかもしれない。









END