母に抗議する意味で、陸人はおやつを探すのを諦め、その代わりに宿題も放棄して遊びに出掛けた。

近所に住む同級生のジュンの家に行けば、ゲームができるし、何より優しいジュンの母がおやつもくれるから。


握り拳を作って商店街を闊歩していると、目前には見知った顔が。



あれは酒屋のいけ好かない男だ!



今しがたの怒りはまだ残されているため、よくも俺の前に現れたなとばかりに、陸人は足を踏み出した。


走ってそのまま、ドンッ、とわざとレイジにぶつかる。

が、反動で転んだのは陸人の方だった。



「いってぇー!」


演技半分、本当の痛み半分で大声で転げまわる陸人にレイジは、



「大丈夫? ごめんね、俺がよそ見してたからだね。ほんとにごめんね。どこか怪我してない?」


と、本気で心配してくれる。

自分でぶつかっておいて自分で転んだ手前、陸人は少しの良心が痛んだが、それでも騙されてやるものかという思いの方が強い。



「どこ見て歩いてんだよ、この詐欺師! 嘘つき野郎! いてぇだろ! イシャリョー払え!」


もはや自分で自分が何を言っているんだかさっぱりだった。


陸人の叫びに通行人たちの足が止まる。

レイジはきょとん顔のまま。



「……陸人くん、ほんとに大丈夫?」


レイジの『大丈夫?』は、今度は陸人の脳内を心配するニュアンスに変わっていた。


くそぅ、馬鹿にしやがって。

陸人はさらに咆哮しようとしたが、



「おいこら、陸人。俺見てたぞ。今、お前からレイジに突進してっただろ」