健介は、困った子供でも見るような目で、



「そりゃあ、お前の母ちゃんが怒るのも当然だろ」

「どうして? 『言いたいことがあるなら言いなさい』って、お母さんが言ったんだよ? だからあたしはほんとのこと言っただけ。悪くないもん」

「いや、お前が悪いね」


はっきりと言う健介。

明子は「どうしてよ!」と詰め寄ったが、



「お前は親に育ててもらってる恩をわかってなさすぎる。金稼ぐのも大変なんだぞ? で、お前は親が布団を売って稼いでくれた金で学校に行ってるし、そのおかげで無駄な化粧品だって買えるわけだろ?」

「……それは、そうかもしれないけど……」


まさに正論。

言葉尻が弱くなっていく明子に、健介は、



「大体、お前はこの商店街が嫌いだって言ってるけど、それはいいところを見ようとしてないからだろ」

「ないよ、そんなもん。古臭いし、買い物に来るのはお年寄りばっかりだし」

「人のあたたかさに、どうして気付けない?」


諭すように言う健介。



「お前が嫌いだと思ってる人たちは、みんなお前のことが大好きで、お前を自分の子供や孫のように思ってる。お前はそんな中で生きてるんだ。それはこの商店街で生まれ育ったからこそ得られる幸せだろ?」

「………」

「化粧品や遊びは、お前の何を満たしてくれる? そんなもんがお前に幸せを与えてくれんのか? お前を心配してくれんのか?」


問われ、明子はいよいよ言葉が出なくなった。

健介はそんな明子を真っ直ぐに見て、



「お前がそういうの全部に気付いて、その上で家を出たいと思ったなら、誰も止めない。でも、そうじゃないなら、まずは家に帰って親に謝れ」


明子は顎先だけでうなづいた。



3つ上の幼馴染は、いつも明子にとって兄のようだった。

正しいことしか言わない人だった。


そしてそのおかげで、昔の明子は毎日が楽しかったのだ。