「お前の親がどうだったかは知らない。何でお前を捨てたのかなんて俺にはわかりっこない。けどな、母親っつーのは命懸けでなるもんなんだよ」

「………」

「俺はさ、今ここで生きてる人間すべて平等に、奇跡の果てに産まれてきたと思ってる。もちろん、俺もレイジも。それだけで幸福なことじゃん」

「………」

「子供の人生は子供のものだ。だから、子供の幸不幸をお前が勝手に決めんな。そんなもん、命に失礼だろ」


ハルはレイジの目を真っ直ぐに見据えて言う。



「誰がなんと言おうと、お前はもう『父親』なんだよ。愛されたことがないなら愛してやれよ。それ以上の何が必要なんだよ?」


大粒の涙がボロボロとこぼれる。


そうだよ、俺だって生きてたから大切な人に出会えて、いいことだってあったじゃないか。

なのに、くだらない過去にばかり囚われて、そんなものに気付けてもいなかった。



「お前が死んだら俺は悲しい。でも俺以上に雪菜ちゃんと子供は悲しむぞ? お前、それでいいのか? 大切な人を悲しませるなんて、それこそが一番の不幸なんじゃないのか?」


ハルの言葉が胸に突き刺さる。

レイジは涙でぐちゃぐちゃになった顔を覆い、子供みたいにしゃくり上げた。


ハルはそんなレイジの背中をさすりながら、



「俺も、商店街のみんなもいる。みんな、お前や雪菜ちゃんの味方だ。困ったらいつでも頼ればいい。お前は少し、ひとりで背負い込み過ぎてただけだ」


心の中に凝り固まっていたものが、自然と溶けていくように感じた。

レイジはしゃくり上げながら何度も「ごめん」と繰り返したが、



「『ごめん』は雪菜ちゃんに言え。俺には『ありがとう』でいい」


涙を拭ってうなづき、レイジはハルに「ありがとう」と言った。


笑うハル。

レイジもつられて泣き笑いの顔になった。