オレンジロード~商店街恋愛録~

びくりと肩が上がる。

ここまで話しておいて、もう『関係ない』とも言えない。


レイジは生唾を飲み込み、



「子供ができたらしい」


現実なのに、どこか現実的ではない言い方でしか言えない。

ハルは「え?」とまた驚き、



「子供って、妊娠したってことだよな? 当然だけど、レイジと雪菜ちゃんとの子だよな?」


そうだよ。

いっそ、違う男との子ならまだ、こんなに悩まなくても済んだのに。



「親がいなくて愛されたこともない俺にどうしろって言うんだよ。自分の血を分けた子なんて気持ち悪いだろ。産まれてきたって不幸になるだけだ」

「『気持ち悪い』って……」

「大体、そうでなくても駆け落ちの身だよ? それに店長は店畳むって言ってるし」

「え? 『長谷川酒店』なくなるのか?」


と、言った後、驚くのはそこじゃないと気付いたらしいハルは、



「つまりレイジは、親になる自信がないから死にたい、と?」


ずいぶん簡素にまとめられたなと思う。

しかし、その通りだ。


顎先だけでうなづいたレイジにハルは、



「そりゃあ、お前、誰だっていきなり子供できたら自信なんてないに決まってんだろ。俺がレイジの立場でも逃げたくなるよ」

「………」

「でもそれはつまり、誰もが通る道ってことだろ?」


あっけらかんとして言うハルに、レイジはだんだんと腹が立ってきた。



「そんなお気楽な話じゃない!」

「いや、そりゃあ、レイジにとっては重要な話だけど……」

「違うんだよ! どうしてわかってくれないんだ!」