オレンジロード~商店街恋愛録~

「産むわ」


雪菜は覚悟を決めたように言った。



「愛した人との子供よ? それ以外の選択肢なんてない。私はこの子を殺せない」


雪菜はそう言って、まだ平べったい自分の腹に触れる。


恐怖が全身を駆け巡り、ひっと喉が鳴った。

レイジは顔をこわばらせ、



「俺みたいな人間の子だよ? 俺は親の愛なんて知らない。育てられるわけがない。子供だってまともに育つわけがないじゃないか」

「でもこの子は私たちを選んでくれたのよ?」


そんなの幻想だよ。

子供なんて、ただ運悪く、精子と卵子が受精してできてしまっただけの産物じゃないか。


ふるふるとかぶりを振るレイジに、雪菜はさとすように言う。



「怖がらないで? この子はレイジを苦しめる存在じゃない。私たちを幸せにしてくれる存在なのよ?」

「俺は雪菜とふたりでいられればそれでいいんだ! 子供なんていらない! 今までそれでずっと幸せだったじゃないか!」

「でももう『今まで』には戻れない」


強い瞳。



「たとえそれでレイジと別れることになったって、私はこの子を産んであげるの。絶対に、殺させたりなんてしないから」


説得の余地なんてなかった。

それどころか、雪菜はレイジではなく子供を選んだのだ。


レイジは震える唇を噛み締め、



「勝手にしろ!」


怒りのままに咆哮し、部屋を出た。