ほとんど憔悴したまま帰宅した。
いつものレイジならば、雪菜に弱っている自分を見せたくなくて、何があろうと、一度、深呼吸をしてからドアを開けるのだが、今日はそんな余裕もなかった。
ただいまとも言わなかったレイジ。
「おかえり」
と、出迎えてくれた雪菜は、もちろん一目でそんなレイジの異変に気付く。
「どうしたの? ……何かあった?」
「大丈夫」
それだけ言うのが精一杯だ。
そこでやっと息を吐き、レイジは気持ちを入れ替えようと努めて、
「雪菜は? 体、大丈夫?」
「大丈夫よ、そんなに心配してくれなくても。私だって子供じゃないんだから」
しかし、そんな風に言う雪菜の笑みは弱々しい。
顔色もあまりすぐれておらず、また無理をしているのだと見て取れる。
それでも雪菜は、レイジがそれ以上、言うより先に、
「ご飯、もうすぐできるから。先にお風呂入ってきて」
と、居間の方へときびすを返した。
その背を見送りながら、レイジはどうしたものかなと、改めて思う。
『長谷川酒店』が潰れるから次の仕事をどうするか考えなきゃ、と、伝えるのは簡単だが、雪菜の体調を思うと今言うのははばかられる。
でも、だからって先延ばしにしておけるような話でもないし。
こめかみを押さえてため息を吐いたその時、居間の方からガタンッと大きな音がした。
「……雪菜?」
何事なのかと焦ったレイジは、急いで靴を脱ぎ、居間へと向かった。


