私は呆然と道の先にいる妻を見つめながらあふれてくる涙をとめる事ができない。
そして気づいた時には、涙を拭いもせずに妻へ続く道を駆けだしていた。何故か体が軽い。若い頃に戻った様だ。
ほどなく妻の元にたどり着いた。だが膝に手をつき俯いたままなかなか顔をあげられない。走っている時も顔をまともに見られなかった。何というか、久しぶりに逢うので恥ずかしくて顔を面と向かって合わせられないのだ。
すると頬に柔らかな手がそっと添えられた。そのまま抵抗する気を全くおこさせない様な優しい手つきで顔をあげさせる。
そこにあったのは、懐かしい顔だった。晩年の妻ではなく、私と出会った頃の妻の姿。私が生涯愛してゆくと誓ったあの頃の。
様々な想いが私の心をかき乱していく。散り散りになった心は、言葉を発する余裕もなく呆然としていると、
「待っていましたよ、あなた」
妻が静かに涙を流しながら笑顔で言ってきた。
その時、私の心にあったのは、ただただひたすらな妻への愛情だった。私はたまらずに妻を堅く抱きしめる。
「本当に待たせたな。すまない。また出逢えてよかった・・・」