「ちょっ……!」
周りに誰も知ってる人なんていないはずなのに、あたしは慌ててプリクラを持つ弘樹くんの腕をつかんで降ろした。
弘樹くんはその様子を楽しむかのようにフッと笑って見おろしてくる。
「また会えたらいいね、じゃあね。架純。」
そう言って彼はプリクラをヒラヒラと振りながら、人混みに消えていく……。
「会うわけないでしょ……。」
1人になったあたしはポツリと呟く。
それでも言葉とは裏腹に、あたしの中で何かが芽生えてる気がした……。
なんであたしに声かけたの……?
なんであたしにキスしたの……?
なんで別れ際に名前なんて呼ぶの……?
『架純。』
最後に呼んだときの声が、キスされるときの声と同じだった気がした……。
少し低くて、だけど意図的に少し甘くしてるような……。
心臓の動いている音が体中に響く。
違う……はず…。
これが恋心なのかと聞かれると、まだわからない。
男慣れしてないあたしだから、弘樹くんじゃなくてもこうなってたのかもしれない。
絶対そうだ……。
「そうでしょう……?」
あたしはライオンのぬいぐるみに向かって、1人話しかけた……。