「…つまり私を取り巻く全ての事象の一部が何かのきっかけで欠落してしまい、正しくものを判断する事が出来なくなってしまったんです。…どうやら私は私というアイデンティティのピースを無くしてしまったようです。そしてその無くしたピースは二度と見つかることは無い…多分ね」

彼はいつになく饒舌に話し、結論づけた。

――僕は色んな事を考える。我々は足りないピースを何かで補いながら、綱渡りのような日々を渡る。あるいはその細い綱から足を滑らせ深い闇へと落ちていってしまう者もいるだろう。彼はこの先、おそらく二度と見つかることのないピースをいつまで探し続けていくのだろうか。そしてどこへ向かおうとしているのだろうか。いずれにしろ彼の全てである未完成のパズルは当然捨てるわけにはいかないのだ。

夕焼けの西日はすでに遠くの街に消え、それと交代するようにネオンの光が灯り始める。

喫煙室のグロウランプが、我々の話のタイミングを計ったかのように静かに点滅した。