「その子、すごく悲しそうな顔をしてこう言ったんです。」
そこまで言って、知恵はずっとうつむいていた顔をあげた。
「『私を忘れないで』って。」
「私を、忘れないで?」
雪見は、どこか引っかかるその言葉を復唱した。
口に出すことで、自分の中にその意味が吸い込まれていく気がした。
「おかしいでしょう?私、その子に会ったことも無いのに。忘れないで、なんて・・・。」
どうして、と言って、知恵はまたうつむいてしまった。
夢の話を聞いただけで、とても重苦しい空気になってしまった。
「・・ごめんなさい、やっぱり、飛行機で結構疲れてたみたいです。疲労ですよ、疲労。そのせいで、こんな夢みたんです。」
あまりにもぎこちない笑顔を浮かべて、知恵は言った。
「無理は、しないでね。」
雪見は、ただそれしか言えなかった。
どこか、今の知恵は危うい気がする。
何かあれば、すぐに壊れてしまいそうなほどに。
ここ数週間の知恵の雰囲気の違いと関係あるのだろうかと、雪見は思考を巡らせた。
「あはは、ありがとうございます。」


