唇を離してから京香の顔を見ると、彼女は目を閉じていた。

その目は、自分を決して見てくれない。

春馬は京香の白い首筋に口づけをした。

「――んっ、一馬さん…」

躰を震わせながら、京香は唇を動かした。

その唇は、自分の名前を決して呼んでくれない。

「――一馬さん…」

背中に、京香の華奢な両手が回った。

彼女を抱いているのに、彼女は自分のことを思ってくれない。

何故なら、自分は身代わりだからだ。

京香は自分を兄の代わりとして見ている。

彼女からして見れば、この世にいる全ての男はみんな兄の代わりなのだ。