「先輩がお金を払ったんですよね?

だったらなおさらのことです」

なかなか封筒を受け取ろうとしない恭汰にイラついたと言うように、京香は恭汰の手に封筒を持たせた。

「返さなくて結構です」

京香はそう言った後、恭汰の横を通り過ぎた。

彼女の後ろ姿を見送った後、恭汰は自分の手の中にある封筒に視線を落とした。

「挑発してきたのは君の方じゃないか…」

恭汰の呟きは、誰もいないオフィスの中へと吸い込まれて行った。

挑発にうっかり乗ってしまった自分も自分だけど、先に仕かけてきたのは京香の方である。

なのに、当の彼女には何もなかったような態度をとられた。

怒っているかどうかと聞かれたら自分でもよくわからないけど、京香の今まで通りの態度に傷ついたのは確かなことだった。