1ヶ月後、京香は退職した。

「上杉さん、いい人だったのにねー」

「まあ、家庭に入るんだったら仕方がないよ」

同僚たちの会話に、恭汰は入ることができなかった。

(いい機会かも知れないな)

心の中で呟いた後、恭汰はフッと笑った。

10年以上も京香のことを思っていたのだ。

そろそろ、彼女のことを忘れた方がいいのかも知れない。

どんな卑怯な手を使っても、京香を手に入れることができなかった。

それらの行為は、自分の一方的な片思いにしか過ぎなかった。

恭汰は1ヶ月前まで隣に座っていた京香のデスクに視線を向けた。

(さようなら、上杉さん)

持ち主がいなくなったデスクに向かって、恭汰は呟いた。