わたしは首を横に振る。


「ううん。この夏も結局、行かれへんかった」


「そっか……。じゃ……行かなあかんな」


「うん。そうやね」


シィ君がわざとその言葉を避けたのかどうかはわからないけど、今度はあの時みたいに『一緒に』とは言ってくれなかった。



「あ……」


シィ君は窓の方を見つめながら、急に何かを思い出したような顔をした。


「オレ……ちぃちゃんを初めて見た日のこと覚えてんで」


「え?」


「オレ、1年の時、昼休みはよく中庭におってん。そしたらある日、ちぃちゃんが窓から身を乗り出して、黒板消しパンパン叩いてて……」


カァ……って顔が熱くなる。

シィ君、そんなことまで覚えてたんだ……。


「あれ、めっちゃ強烈に印象に残っててん。ちぃちゃん、時々黒板消し叩いてたやろ? なんであの子はクリーナー使わへんのかなぁ……っていつも不思議に思ってた」


「それは……。クリーナーが壊れてて……しょうがなくて……」


ブツブツ呟くわたしに、シィ君はニヤリと笑ってから「ぷっ」って吹きだした。


「そういえば、オレ、ちぃちゃんが落とした黒板消し、拾ったこともあったな」


「ええっ?」


うう……。

もう、恥ずかしすぎるよ。

あの時の記憶をシィ君の脳から抹消したい。