「なっ……」



怒りとも苛立ちとも区別のつかない感情がさらに膨れ上がるのを感じていた。


「なんでやねん。ゆっくりって言ってたやん。あの子の気持ちも確かめんと、そんなんしたんか?」


もう、オレの声は自分でも驚くほど、感情的になっていた。



――ガタンッ

サトシが勢いよく立ち上がり、その拍子にイスが倒された。


「なんやねん……お前」


オレを見据える鋭い眼差し。

今にも殴りかかってきそうな気迫すら感じる。

サトシがこんなにも自分の感情を表に出すのを見るのは初めてかもしれない。


「お前もちぃちゃんも……なんやねん。オレの気持ちもいい加減、察してくれっ! そんなにあの子が大事なんやったら、お前がなんとかしたれや! あの子の気持ち……お前が一番わかってるんちゃうんか!」


吐き出した言葉の荒々しさとは裏腹に、サトシは静かに部屋を出てそのまま2階へ上がった。

おそらく自分の部屋に入ったんだろう。

パタンとドアを閉める音が階上から響いた。


この苛立ちの原因。

オレだってもう薄々感づいている。


オレは今、ちぃちゃんの為にサトシを責めるような言い方をしたけど、そうじゃない。

オレ自身が、サトシを問い詰めたかった。

このどうしようもない感情のせいで。




これは嫉妬だ。


サトシに嫉妬していた。


彼女の唇に触れたサトシに……。


映画で見たあの男と同じだ。




かっこ悪っ……オレ。