驚いて見上げると、シィ君がわたしのすぐ横に立っていた。


シィ君は最近また雰囲気が変わった。

コンタクトをやめて、メガネを掛け始めたせいだ。

本人曰く、受験モードに突入するのにメガネの方がやる気が出るんだって。

案外、形から入るタイプだったのね……。

スクエアタイプの黒のセルフレームはシィ君の一見(あくまでも一見)落ち着いた雰囲気にとても似合っている。


彼がもともと目が悪かったことすら知らなかったわたしは、かなり驚いた。

だけど、みんなが言うには、中学の頃はメガネ姿が普通だったらしい。

それでも、そのメガネ姿はわたしにとっては新鮮で、やっぱりこんな風に近づかれると今でもドキドキしちゃう……。


ダメだな、わたし。

全然進歩してないよ。



「お前……何やってんねん」


シィ君は上から見下ろし、ため息まじりにサトシ君に言った。


「受験するんやろ?」


「するよ。けど……今年はもうええわ。諦めた。一浪ぐらいどってことないやん?」


サトシ君は能天気にそう答えた。


「今から一浪する言うてるようなヤツは絶対二浪するね」


シィ君はそれだけ言って去って行った。



「アイツ……嫌味やな。オカンか」


サトシ君は顔をしかめてから、わたしにこっそり耳打ちした。

でもほんと、シィ君は何しに来たんだろ?

まさか本当にサトシ君に嫌味を言うために来たのかな?



「なぁ……。今日帰りつきあってよ? ちょっとだけ息抜き。な?」


サトシ君は顔の前で両手を合わせて、イタズラっぽい瞳でわたしに訴えてくる。


彼は女の子に甘えるツボをちゃんと押さえている。

そんな目で見つめられたら、断れないよ。


「はいはい」


お母さんみたいに優しく答えると、サトシ君は満足そうに微笑んでいた。