「別に……ないよ」


そう、理由なんて他にない。

オレはそう呟くと、再び歩き出した。




しばらくして、休憩しようということになり、近くにあったファーストフード店に入った。


「あ……ちぃちゃんや」


席につくなり、サトシは少し離れた席に座っている彼女の姿を見つけた。

オレ達がいることには全く気が付かないのか、同じクラスのアカネとおしゃべりに夢中になっているようだった。


オレの座っている席からは彼女の表情は見えないけど、笑うたび肩が震え、その柔らかそうな髪が揺れた。

コットン素材の白いノースリーブのシャツからは、生まれてから一度も日焼けしていないんじゃないかって思うぐらいの白く華奢な腕が出ている。

その腕に髪がかかって、彼女の動きにあわせて揺れる。

なんかシャンプーの宣伝に使えそうなぐらいキレイな髪だな……なんて感心しながらぼんやりと眺めていた。



「最近……可愛くなったと評判」


サトシのその言葉にハッと我に返る。


「誰が?」


一応、尋ねてみたものの、サトシの目線からそれが誰のことを言っているのかはわかっていた。


「つか、いったいどこで評判なん?」


「ん? うちのクラスで」


サトシはオレ達の隣のクラス。

選択科目によっては、一緒に授業を受けることも多いから、彼女が隣のクラスの男の目に留まることは自然なことだった。