そこで口をつぐんだ。

やっぱダメだ。

これ以上はどうしても言葉が出ない。



「気になる?」


その声に驚いて顔を上げると、

いつの間にか、兄貴はオレの方を向いていた。


「お前は、ほんま小っさいね。そんなこと気にしてんの? 好きな女の過去ぐらい全部受け入れなあかんやろ?」


兄貴はサトシと同じようなことを言った。

わかってる……。

頭ではわかってるんだけど……。



「ヤってへんよ」


へ?

オレは顔を上げた。


「ユウちゃんとは子供みたいな付き合いやった。めっちゃプラトニック。チュウすらしてへん」


兄貴はくすくす笑いながらそう言った。


「しかし、あの子、ほんまええ女になったなぁ……。せめてチュウぐらいしとけば良かったな。お前と別れたら、またオレがもらっていい?」


「やらへん」


テレビではタイガースの4番がホームランを打ったらしく、兄貴は喜びの声を上げると、また画面に食い入るようにそれを見ていた。

オレはどこか肩の荷が下りたような気がして、グラスの中の麦茶を一気に飲み干した。