ゴンドラの中には、明らかにさっきまでとは違う空気が漂っている。

相変わらず心臓は早鐘を打っている。

だけどそれは、さっき見たキスシーンのせいなのか、すぐ横にいるシィ君のせいなのか、わたしには判断できなくなっていた。


二人の距離は5センチぐらい。

ほんの少しでもゴンドラが揺れれば触れてしまいそうな距離。


シィ君がユカリちゃんと付き合い始めてから、わたしの中ではシィ君という人物の定義が変わった。

今わたしにとってシィ君は単なる“友達”ではない。


“友達の彼氏”だ。

ただの友達よりも、もっと遠い存在。

だから、こんな風にドキドキするだけでもいけないことをしている気がしてた。

でも、どうしても止まらない……。



わたしは膝の上でギュと両手を握り締めた。


どうか……

今だけ許してください。


後少しだけ……。

このゴンドラが地上に降りるまで。

それまでは、ほんの少し彼を感じていさせて……。



シィ君はわたしから顔を背けて窓の外を眺めている。


わたしもただひたすら俯いていた。


夕陽の差し込むゴンドラの中で、

お互い言葉を交わすこともなく、


ただ観覧車が回る機械の音だけがやけに響いていた。