ぼんやりしているわたしにアカネちゃんが声をかけた。

アカネちゃんはわたしの視線の先を追って、つぶやく。


「わたし、本田さんも香椎君も嫌い」


「え?」


アカネちゃんはじっとシィ君を睨んでいる。


「だって……。ちぃちゃんの気持ちわかってて、なんで二人は付き合えるん?」


アカネちゃんは、わたしの立場になって心を砕いてくれているのだろう。

でも……。


「違うよ、アカネちゃん。二人とも、わたしのこと気にしてくれてるよ」


実際にそうだった。

二人はわたしの前では必要以上にベタベタしたりはしない。

わたしを気遣ってのことだということは、わかっていた。

そしてそのことが余計にわたしを居心地悪くさせていたのも事実。


仲良くされれば嫉妬して、気を使われると惨めに感じた。

自分の中にある複雑な感情が苦しかったし、そんな自分が恥ずかしかった。

それから逃れるためにも、早く二人から遠ざかりたかった。


「それに……」


わたしは言葉を続けた。


「二人がうまくいくように願ったのは、わたしやねん。だから、アカネちゃんは二人を嫌ったりせんといて?」


「ちぃちゃんがそう言うなら……」


アカネちゃんはそう言って、納得してくれたようだった。



高校生活最後の1年間を、わたしはこのクラスでシィ君と過ごす。


どうか、これ以上心が乱されませんように……。


そんな風に願っているということ自体がまだ彼を忘れていない証拠なのに、

それを自覚することすら無意識のうちに避けていた。