向かったのは美術室。

誰もいない部屋は静かで、廊下よりもさらに気温が低いような気がした。


棚の奥にしまいこんでいた1枚のキャンバスを取り出した。


シィ君を描いたあの絵。

わたしの想いがつまった絵。

だけど、彼に見てもらうことも叶わなかった。



キャンバスをイーゼルに立て掛ける。


ペインティングナイフを取り出して、キャンバスの中の絵の具を削る。

何度も色を重ねた部分は、かなり分厚くなっている。

丁寧に少しずつ絵の具を剥がしていく。

やがて平らになったその絵は、ひどくぼやけて寂しそうに見えた。


それから下地用の白い絵の具を用意した。

刷毛のような一番太い筆で、白をキャンバスに塗りこめて行く。

一筋引く毎に、絵が消えていく。


やがて絵の中のシィ君も消えていった。


――ポタッ

頬を温かい物が伝う。


それでも手を休めずに、白く塗りつぶしていく。


「……ひぃ……っく」


もうこらえられなかった。


ずっと我慢していた口元が震えて、とうとう声が漏れてしまった。


涙はとめどなく流れる。


ポタッ……ポタッ……ポタッ……



ねぇ……

気持ちも……


彼を想うこの気持ちも……



この絵みたいに、白く塗りつぶすことができたらいいのに。


真っ白になって


すべて最初から何もなかったかのように。



「うっ……ぐすっ……」


誰もいない美術室に、ただわたしの泣き声が響いていた。